なんでそこまで、娘を支配しようとするの?お母さん自身も止めたくても止まらない。こういうことは世間にままあることとはいえ、こうなると病理です。子供を自分の思うようにしたくてたまらない。子供のためによかれと信じて、親が正しいと考える方向へ誘導する。この駆り立てられるような思いには、じつは原因があるのです。
原因は、母親自身の心の傷です。安全安心な家庭で、愛され受容されて育たなかった、こうした機能不全の家庭で育つと、この不満足な家庭をなんとかしたいという気持ちが刻みつけられます。それから、不信、恐怖などのマイナスの感情に圧倒されてしまった思いから、自分が成長したら、かつては圧倒された思いを今度は自分で支配し、なにごとも完璧にやりこなして、がんばろうと思います。そして、それはわが子にたいしても、完璧主義を強いる結果へとつながります。あるいは、不満足な家庭をなんとか動かそうという思いだけが、気持ちに張りついて自分が動かして更正の余地のある人、つまりダメな異性にばかり魅かれることがあります。これを共依存といいます。重いPTSDの被害者も、同じような心の傾向を持つことがあります。
こうなるとウィニコットのすすめる「ほどほどの親」とほど遠い状態になります。楽天主義、のんびり、などと正反対の心境で子供は育てられます。支配とコントロールが行き渡り、子供自身の性格によっては、引きこもりの原因になったりもします。楽天主義とかのんびりというのは、怠け者を製造するようでよくないと思われるかもしれませんが、楽天主義やのんびりとして育った方は、危機の時に強く、自己肯定感があるので、本質的なところでダメになりません。
母の介入のし過ぎを娘が指摘しても、とうてい受け入れないでしょう。母親自身の自己否定につながる反省は断固拒否します。子供に症状が出た場合は、専門家の言葉に耳を傾けるかもしれません。その時に必要なのは、世代間に境界線をひくことです。心理療法の多くは、親子のあいだに境界線を引いて、役割りを越えないようにするものです。母だからといって無闇に子供自身の領域に侵入してよいわけではありません。
またお母さん自身の心の傷を吐き出してもらって治療することは、根本治癒につながります。このように母の呪縛には根深いわけがあるのです。
多くの場合、母親自身が反省にいたることは少ないので、子供のほうから距離をとる、出生家族からの離脱、あるいは断絶というのも、しかたがないのかもしれません。