フラッシュバックがおきました。はずかしい話ですが、50年以上も前のことを、現在のできごとのようにリアルな感情とともに再体験したのです。
引きがねは、娘ムコでした。娘ムコは、腕っこきの営業マンです。そのせいか赤ん坊の我が子への応対はやさしいパパそのもの。その様子を見ていた私は、「ああ、いいなあ、私の父とは正反対だなあ」と感じていました。
私の母は、のんき者でしたから、母と私のあいだには、なんらわだかまりはありません。それに対して父は幼い私にとってイヤな人でした。父が私を愛してくれていたことは、亡くなった今となってみればわかるのですが、父がかけてくる言葉は、あざけり、嘲笑、競争意識そんな言葉ばかりだったということが私の心に残っています。
娘ムコが赤ん坊をかわいがる姿を見てから、じきにフラッシュバックが起きました。廊下か寒い部屋にいたときに、ひんやりとしたイヤーな感情につつまれたのです。体感的に父にまつわる感情だと直感しました。フラッシュバックとは、遠い過去のことなのに、少しも薄まっていない現実のなまの感情が湧きおこるものだと、あらためて知ってびっくりしました。以前のことですが娘が「おじいちゃんてイヤなことばかり言うよね」と言っても「そうお」という程度の反応と記憶しかなかったのに…。
現在の子供の発達(心理学では子供の心の成長を発達と言います)では、子供にとって母は自分か他者か見分けがつかないほどの特別の存在。父は、最初に出会う他人で、その存在は社会へと投影されていきます。記憶にない赤ん坊時代の私は、よほど父に違和感があったとみえて、子供時代の私は人がこわくてたまらない人見知りの子でした。父の印象の投影でしょうか。きっとそうだと思います。数十年も昔の感情がリアルに噴出してくるということは私にとってとても珍しい体験でした。