《夫の死後出版》文豪漱石の死後、夫人が夫の思い出を出版しました。なにしろこれがびっくりするようなしろもの。漱石が並みはずれたDV夫だったというのですから。あられもない慨嘆に満ちたその本には、若き漱石が疾病レベルにまで達していたことのあるエピソードまでおりまぜられていました。そして出版後夫人は、激しいバッシングに会いました。時代の気分から言っても、こうした暴露の仕方は許されなかったのでしょう。
《作話症》ついには夫人は、作話症という病名までちょうだいしました。文豪の妻がこうした暴露をすることへの怒りとともに、ふだんの漱石に親しく接している門下生から見ても、漱石の温容な人柄といい、あり得ないことと映ったようです。
《DV男性は魅力的》ここにも、DV的な男性の性格の特徴がよくあらわれています。親密関係(おもにパートナーとの関係)以外では、きわめて魅力的な男性というのも、特色のひとつなのですから。それでは暴力の原因は何だったのでしょうか。
《愛を演じる養母》漱石の養母は、愛がないのに、愛を演じる人だったようです。こうした養母への幼い時の怒りが蓄積していって、やがてその怒りがパートナーに対して向けられたのでしょう。小説以外の日常の所感などを読むと、妻の些細な言動にたいして、激しい憤懣を抱いていたことがわかります。これは、安全安心感をもらえないで育った人によくある心のあり様といえます。
《小説家として大成の原動力》妻だけではなく、家族も似たような体験談を表明していたことから、まあ、あの話はほんとうだったのだろうという作家もいました。また安全安心感をもらえないで育ったがための、敏感過ぎる感性はとうぜんのことながら小説家としての大成の原動力となったことでしょう。