《段階特定的》カウンセラーとしてごく正直に申しますと、アダルトチャイルドの方の場合、過去の傷を吐き出すだけのセラピーで、傷ついた過去の傷が完全に癒えて、健康的な親のもとで育った人と同じ心の状態になるまでの完全回復はないと言われています。なぜなら発達とは段階特定的だからです。ある年代に必要なものが欠けた場合、それをあとから完全に埋め合わせることはできないという理論です。たとえば1才児に必要だったスキンシップを、それがなかったので大人になってからけんめいにハグしたとしても完全な埋め合わせはないというのが心理学の見解です。
《亀の甲羅の線状の模様》アダルトチルドレンという言葉を日本で最初に発信した斎藤学医師は、それは亀の甲羅に彫られた線状の模様に似て消えることがないと言ったそうです。筆者も、ほとんど回復したように見える方でも、どこかに名残りがあるものだと感じています。そこでカウンセリングの現場では、ほとんど完全治癒に等しいまで回復することを目指すことになります。
《心理療法の世界的な流れ》アルバート・エリスの論理療法では、問題となっている現実をショックが少ない形で最終的に受け止めることを「エレガント・ソリューション」と呼びました。また、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という新しい流れのセラピーでは、ある程度回復したら、完全に回復するまで、社会復帰しないと意地をはらないで、現実の生活に乗り出していってそこで、新しい喜びなどを見出し、自分のかかえている問題を相対的に小さくする、という方法を提唱しています。これが世界の心理療法の流れです。
《傷つきやすさ》些細ななことで傷つきやすいと感じている方にとって、傷つきやすさが、なかなかとれないことが、気になっている方はけっこう多いですね。そういう方は、それがカウンセリングのほぼ中心的な問題になっています。長いこと「あの時こんなことを言われて傷ついた」とか「昔母にこう言われた」といったセッションを続けても、傷はゼロになりません。
《アサーティブ・トレーニング》よい方法があります。傾聴によるカウンセリングの途中で、かなり出つくしたと思われるころから、アサーティブ・トレーニングをとり入れるのです。アサーティブに返せるようになると、すばらしく自信がつきます。あたかもいったんトゲが、皮膚にめりこんだものの、適切に言い返せたことによって、皮膚が自然にもりあがってきてトゲをはじき返したかのように、自然にトゲが抜けるのです。皮膚には、どのような傷も残っていない、そんな感じでしょうか。自分に自信がつくと、ちょっとした攻撃に対して傷つくことが少なくなるのです。しかも、このアサーティブ・トレーニングは、ひとたび成功すると、いろいろなところで応用が効きます。
《心身の健康な方にも便利なツール》アサーティブ・トレーニングは、かなり便利なツールで、日本語では主張訓練法といいます。相手も自分も尊重する主張のしかたで、ケンカにならずに自己主張ができます。広く会社などでも行なわれています。心身が健康な方は、一度習うとすぐに実行できるようですが、心に傷のある方は、傾聴によるカウンセリングをしてからの方が、実行しやすいようです。このように傾聴によるカウンセリングと各種の認知行動療法を組み合わせることによって、心の傷がかぎりなくゼロに近づいていくどころか、トレーニングを受けていない人よりも有能で傷つきにくくなっていることに気がつかれることでしょう。