事例紹介

7、多重人格障害ー別人格が消えてもAC的な生きづらさは残る

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そのクライアントさんが私のところにやって来たとき、すでに別人格は消えていました。50代の女性です。別人格が消えるとほぼ同時に胸の痛みがはじまったそうです。以前は毎晩のように寝姿から幽体離脱をして、ふとんの上にどしんと墜落していたといいます。精神科医にもかかっており、ひどい養育環境などへの気づきなど、こうした障害にたいする治療的な体験をかなり経てきているなという感じがありました。胸の痛みについて内科的な検査では所見なしとのことで、精神的なものと自覚していました。その痛みはハート(心臓)ではなく、腕の付けねのところから内がわに入ったあたりだそうです。

このように記憶が回復するということは、ある意味でそれまで感情が麻痺していたのに、つらい、苦しい、などの感情がわいてくるのでかえって悪くなったのではないかと思えるほどです。しかし、これは治療の進展であり、かの心理療法の創始者のフロイトも言っていることです。無理に記憶をかき出したのでなければ、記憶の回復は本人が耐えられるからこそ起こる現象といえます。体はちゃんとわかっているのです。体を固まらせて耐えられない体験を生きのびてきたのが、体が柔らかくなりある程度強くなったからこそ思い出すのです。

私の経験から言えることは、多重人格障害の方の基本気質は、まず明るいということです。多重人格障害とほぼ同じ症状に解離性同一障害があります。こちらは、別人格の出現をともなわないものもふくまれ、記憶をなくしていたりします。乖離症状は、記憶をなくして耐えがたい被害体験を経て生きのびるために無意識のうちに選択したサバイバル戦術とみられています。乖離の方も基本気質は明るい方です。ある乖離の方は、回復と同時に世の中は、三次元の世界であることを知ったそうです。それまでは、世界は平面で構成されておりいわば二次元の世界だと感じていたといいます。

さて、くだんの多重人格の女性ですが、父親がよその女性に生ませた子供が父の家にひきとられたという状況なので、養母のターゲットになりやすい要素はありました。たとえば髪の毛をつかんで持ち上げられ、玄関のたたきに打ちつけられるとかいう話などを感情をまじえずにたんたんと話します。まともに心身の痛みを感じていたら、たえられないから感情を鈍くしているのでしょうね。

最初彼女は、自分の生家がいかに地方の物持ちかなどについてえんえんと話していました。やがて私は、「そういう話をしていても回復はしないよね」と言いました。彼女は、はっとしたような顔になり、それから真率に「愛されたかった」「愛されたかったから、一生懸命家事をした」と涙をぽろぽろとこぼしながら話しました。

気になったのは、祖母の存在。継母の仕打ちの動機は、わからないでもありません。いっぽう祖母は父方ですから、継子いじめをされている彼女の後ろだてになってくれてもよさそうなのに、継母とあまり変わらない無慈悲な印象です。「そのおばあさんて、情がない感じがするけど。だってかわいそうな立場にある孫娘じゃない」という私の言葉に彼女は息をのみました。

祖母は明治生まれ、一家の誇り、郷土の誇りのような存在です。他人からはとてもよい人と言われていたそうで、彼女も尊敬していました。私が祖母の印象を伝えた一回めのセッションの後、彼女は、部屋に飾ってあった祖母の写真をひきだしにかくしました。そうしたら胸の痛みが2割ほど減ったそうです。

彼女はいまだに、継母を愛しているように見えました。「あなたにとってお母さんは、継母なの?」「そう」、と彼女は首をたてにふりました。鬼のような継母でも、彼女の二人の娘、つまり継孫はかわいいらしくて、時々贈り物があるようです。そのときに孫たちがすぐにお礼の電話を入れないと彼女のところに、お怒りの電話がくるそうです。そのときの、彼女の気を使った応答の再現は、胸痛むほどのものでした。彼女の婚家も凄絶な家で、よく虐待をしないで二人を育てたものと感心しました。その家を出るときにあまりにもさびしいので、継母に「お母さん一度抱いてください」と言ったら、拒否されたそうです。

私は言いました。「いくらあなたが誠実につくしても、そのお母さんから良い見返りは来ないですよ。至誠天に通ずという言葉があるけれど、それは天が公平だから、誠実を尽くせばいつかはわかってもらえるということもあるでしょうけれど。そういう能力はない方です。能力のない方にいろいろと尽くしても裏切られ続けるだけですよ。」その時も彼女はじつにす早く私のアドバイスを受け入れてくれました。「英語しかわからない人にいくら日本語で話しても、わかってもらえないということですね」数回のカウンセリングで、彼女はかなり回復したといいます。「ええっ、ずいぶん早いわねえ」と私は驚きました。しかし次のセッションで継母さんとのやりとりを再現してもらうとやはり、大変気をつかっていて、ああやっぱり愛がほしいんだなあという感想がわきました。彼女は、対人コミュニケーション能力の高い方で、ACの方がおちいりがちなコミュニケーション不全があっても、私のアドバイスをすぐに実践にうつすことができます。通常はロールプレイをやったあとでも、じっさいにそのとおりに言ったり実行することはできないことが多いものなのですが…。

クライアントさんには、6、7才の幼いころに集団で性暴力を受けた過去があります。目いっぱい家事をさせられていた彼女は、そうした家事の合い間に一人ぼっちでよく寺の墓地で遊んでいました。その時にレイプされたのです。相手は思春期と思われる年ごろの少年たちでした。これも忘れていたそうです。いつも悪夢のたびに真っ黒な雲の固まりに追われて冷や汗をかいていたですが、その記憶が雲の固まりになって、夢に登場していたようです。そのせいか彼女は、結婚しても性的な感じというものが皆無。「これって治りますか?」ときかれても私は「さあ…」と言いうほかありません。じつはACの方がよく性の部分を冒されているということは承知しています。マゾヒズム、サディズム、女装趣味、少女への興味等いろいろありますが、因果関係を特定するまでにはいたっていません。しかし、心の健康を回復するとともに、性的な部分が健康になったという報告を受けています。「心の健康の回復を優先しましょう」今のところ彼女に言えるのはこれだけです。

じつは彼女の娘さんも乖離の能力を身につけています。彼女が虐待をしたとは考えられないのですが、多重人格は母子相伝のケースもあります。ある時娘さんが失恋し、気がついたら海の中にいたそうです。その間の記憶は抜け落ちていたといいます。恐ろしいことですね。

クライアントさんに、臨床動作法をして心と肩と全身を暖めたり、彼女自身でぬいぐるみに触れて皮膚接触の感覚を味わったりしています。彼女は、一見すると明るいように見えますが、ふだんはうつうつと暮らしているとのことです。大量の薬も処方されています。彼女の言葉のはしばしに私は、彼女の怒りを感じます。こうした怒りは、過去の怒りの投影であることが多いものです。

別人格が消えても、AC的な特徴であるオールオアナッシングの白黒思考、グレイゾーンで生きにくいなど心の弱さゆえの傾向が残ることがあります。これは、心理療法で回復していけるでしょう。

彼女にはあたたかな人間関係というものを味わっていただきたいものと思います。彼女とのセッションの着地点はまだ見えていませんが、彼女の申し出によって書かせていただいています。

 

 

 

 

 

 

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